赤色巨星(せきしょくきょせい)
この深紅の電車が「野里」というところにオイラを運んだよ。 播但線(ばんたんせん)という姫路からでているローカル線ね。 関東の人間にわかるわっけがないよね。
この駅前にある、市民広場がこの日のオイラのステージだったんだ。
去年から通っている「はりま天文台の弟子養成コース」の最終試験だった。
これは、 全員が受験できるわけではなくて、オイラも、受験申請してからこの日を迎えるまで半年かかったんだ。
今回の受験者はオイラひとり。
最終試験は「一般の天文ファンに星空を見ながら、レクチャーする」というもの。採点には天文台関係の人たちがズラッと並ぶ。
もうその光景を見ただけで、「うわー逃げ出したい・・・」って超弱気の虫がでてきたよ。 「いやいや考えて見ろ、こんなのK大の卒論の東大の先生による口頭試問の緊張感からすればカッパの屁だろー」
と自分に言い聞かせる。
要は、学校の先生が授業を五人の教育委員会の人たちに精査されるような光景なんだよあー・・
それにしても、お客さんの層を見て見ると、親子から高校生、一般成人までいるじゃないのさ、人数にして20人ちょっとね。
一体誰に合わせて、宇宙レクチャーや星空案内すればいいいんだろう???
という疑問が浮かぶ・・・
学校の先生が、「教室の誰に合わせて授業をすればいいのか」・・という葛藤がほんのちょっぴり分かった気分だよね。
お客さん達は この広場で年4回行われる定期観望会に来ているに過ぎなくて、今夜オイラの天文試験があるなんて知ったことじゃあなんだよね。
それでね、通常どおり観望会と、主査で天文学芸員のI先生による、宇宙講義が終了してから、こうアナウンスされたんだ。
「 これから、天文台の最終試験を受けるキドさんって方が、おられます。 みなさん観客としてご協力お願いします。観望会自体はコレで終了なので、キドさんの話がつまらなければ帰って結構です」・・・と。
オイオイ なんだよそれー
ようやく場馴れしてきたオイラに再び、不安の悪魔が手を掛けてきた。
しかしオイラは、この時、既に作戦を立てていたんだ。
小学生に合わせて喋ることに統一しようってね!
すべての人にと、思うと、どの層も理解できないかも知れない、ならば、小学生の夏休みの自由研究のヒントにでもなったら・・素敵ジャン
しかもこの日は地元の花火の日と重なっているらしく、花火よりこっちを優先してくれた小学生になにかいい顔したいじゃん。
大人としてね・・。
なーんて 余裕は 初っぱなからぶっ飛ぶ、
「天の川は、なんでできているか知っているかな?お兄ちゃん?」
『星の集まり、銀河系の内側を、太陽系の視点から見たもの、銀河系は1000億個以上の星の集まり』 なにー、予想以上の答え「おにいちゃん名前は?」
『タクミ・・・小六』
「じゃあタクミくん、あの星は何?」
『さそり座。アンタレス、表面温度3000度』
なにからなにまでこんな感じでさ、オイラも、タジタジ・・・。
しかもタクミ君だけじゃあなくてさ、小三のの女の子まで、
『アンタレスは、せきしょくきょせいでデカーイ』とか言うんだよ、
タクミ君に続いてね・・・もうぶったまげた。
因みに(せきしょくきょせい)とは赤色巨星で太陽がピンポンボールならアンタレスはバスケットボールだ。
さらに続けて、タクミくんが『核融合反応』と赤色巨星の成り立ちを言い始めちゃったりでさ・・。
さすがに望遠鏡の操作ではオイラが、絶対優位にたったけどね。 まあ毎日いじってるもん。
ベガを入れたところをみんなに見て貰っている時ね、焦点がズレチャッタみたいで小4の女の子が、『ボケテテみえん』とか言い出すんだ。
オイラはあわててさ、即、修正して、その子に、
小声で、「試験なんだから、頼む! 大げさにヨロコンデヨ」
ってお願いしたんだ。
『めっちゃキレイやん!!』 『マーちゃんもはよ見てミー』
おーーありがとう流石は 関西、素晴らしい感性だ。
あとで、特にタクミくんとそのお母さんと話ができたんだ。
タクミくんまだ望遠鏡はもっていないんだって、いま一生懸命貯めてるって・・。 なんだよオイラの完敗だったか。
部屋の中は、理科の図鑑だらけで、この観望会も絶対に連れて行ってくれと懇願されたんだって。
本人に、あそこまでの知識はシッカリとした本を読まなくては、学べないけれど、小六で読めるのか? と疑問をぶつけたんだ。
「10回くらい読んでなんとなく、20回くらいでまあまあ、30回くらいで、みんなに言えるようになる、」 といった意味のことを、関西弁で早口でダンダンダンI。
「研究者になりたいの?
『京都でやってみたい』
うわーーーーーガツンとやられたよ。
試験結果は後日・・・・
今日の朝、姫路を6時の始発でたった。
車窓を背景にオイラは爽やかな気分で居ることに気がついた。
10時から診療へ、不思議と疲れが無い。
観望会に来ていた小学生達、見た目はちびっ子だけれど、
存在は赤色巨星だった。
「赤色巨星(せきしょくきょせい)」へのコメント
コメントを残す
カテゴリー:院長ブログ 投稿日:2014年8月2日
師匠 中々手ごわい相手との対決が 最終試験とは 試験官もなかなか知恵を絞っているね。
子供達のレベルが 余りにも高いので ビックリしている様子が目の前に浮かんで来たよ。
でも此れぐらい高いレベルの子供達が居るなんて 日本の天文学も良いレベルに・・・・
京都に行きたいなんて 驚愕の発言 やっと扉を開けても貰った師匠にとっては 凄いライバル。
姫路からののぞみ号は6時姫路始発で新横浜8時44分着
オイラ 姫路のT会社と合弁で液晶テレビを作り始めた時から赴任し 神奈川への帰省には 此れに乗っていたから懐かしいね(20年前の話)
端っこのホームに寂しく停車している。何故か姫路始発なんだよね
結果楽しみにしています。『大使』合格を 祈っています。
お疲れ様でした!!